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今日の話題  2010年2月5日
池上 惇

━━第35部━持続可能な創造型ストック━━━━━━
私の教育人生 7 新しい職人の人格と技術
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


今日は、「私の本棚」で、高久多美男編集・中田宏コーディネイター
『Japanist』第4号(2010年1月25日)、関口暁子「伝統工芸の
発展形」をご紹介した。

福原義春先生からいただいた雑誌で、お薦めの論文である。
関口さんは、航空会社、旅行企画部、ドイツの商社を経て、伝統工芸
品産地プロデユーサー、地域再生支援doppo代表。
「職人とは何か」に関心を持つ私としては、答えを見出す上で最高の
文献であった。

同氏は、「北陸先端科学技術大学院大学、石川伝統工芸イノベータ養成
ユニット」における、養成コース二期生の九谷焼作家、佐久間忍氏
制作の‘マイちょこ’を手がかりにして、現代の職人増に迫ってゆか
れる。
この九谷焼は、素晴らしいデザインで、いかにも、使い易そう。
そして、伝統的な加賀友禅の袋。
一番の注目は、「・・・日本は百年以上続く老舗の会社が世界で最も
多く、伝統工芸で培ってきた職人技が現代の先端技術をも支えている
という事実」である。
優秀な職人たちと、それを理解する国民こそ、日本文化の誇りである。
(110ページ)
伝統工芸の生産は、人から人へと‘つながる’なかで、名人らから
伝えられてきた技術だけでなくて、妥協を許さない自立した精神性
を育てる。
記事を読んでいるうちに、新しい職人像のイメージが明らかになって
きた。

昔は、とくに、戦前の日本では、職人の世界には‘パタナリズム’
‘徒弟制度’と呼ばれる上意下達の鉄則があり、親方が弟子に対する、
一種の「経済外的強制力」を持っていた。しかし、戦後の民主化や
家族法の改革によって、いまや、学校で学ぶ自由な精神を持つ職人
が登場した。
そこには「自覚的意思と思想」をもつ職人が登場する。
この新職人は、芸術家と同様に、芸術的表現の技術を持ち、同時に、
創造的な自立の精神を持つ。
この自由への道は、決して、恣意、すなわち、自己の利益追求の自由
を意味しない。
そして、よりも‘他’への義務を果たす自由を追求する。
では、‘他’への義務を果たす自由とは何か。‘他’とは何だろう。
例えば、陶磁器を扱うとき、かれらは、素材を一方的に、かつ、人工的
に染め上げるのではなくて、素材のよさを活かす力を持つ。
この力は、自然を敬愛する人格と、時間と労力を費やした自覚的な
修練を通じて生み出される。
新職人は、自立を背景に、自由で開かれた発想をもちつつ、この自由
を生かして自然の齎した素材の潜在的な‘美と用’(美しく使って楽し
い実用性)を、顕在化する。
また、自然とのコミュニケーションを重ね、それを深く知る‘営み’、
すなわち、植物や動物を育て、火や水で鉱物を変化させて仕事や生活
に活かす中で生み出されてくる。
工芸においては、彼らは、自分の関わる自然の素材の構造をよく知っ
て、加工し表現する。
そして、無理のある加工・表現は、自然の痛みとなり、内部構造に
添った加工や表現は、自然の歓びとなるかのように感じる。彼らは、
仕事と生活に地域固有の自然、景観、資源などを活かして生き抜く。
そして、自分が、作品をつくり、表現できるのは、自分の恣意による
ものではなくて、自然によって自分が生かされ、教えられた結果で
あると考える。
彼らは、自然の象徴である天や地、あるいは、先人の限りない教示
や愛情によって、生かされているとの‘謙虚な自覚’をもつ。
これは、自己を自然や歴史の‘うみだしたもの’、あるいは、それら
の一部として自覚しつつ、自己抑制することを意味するだろう。
新たな職人は「自然によって生かされていることを自覚し、感謝し、
自然の恩の応える」。

職人のことを考えているうちに、おや、これは、創造型経営者の哲学
ではないか、と感じた。
工芸の哲学を「企業経営の哲学」に置き換えると、日本の創造型経営
論に接近できるのではないか。
そういう目で見てみると、日本の経営者には「率先垂範型」で、職人的
な思考の人が多い。
また、自分で、趣味のようにして職人芸を持つ人々でもある。
例えば、蘭の育成に関心を持ち、そこでの手仕事を磨かれていること
もある。
職人型の経営では、社長と社員の分業体制には、馴染まないで、社長は、
上から命令する人ではなく、「先に進んで、後からも支える」タイプが
多い。
巨大企業となれば、そういう形は難しくなり、分業と官僚制の弊害
に悩まされる。
職人の哲学を基礎とした創造型経営の道、これがいま、求められて
いるのかもしれない。
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