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今日の話題  2010年1月21日
池上 惇

━━第34部━第三の道=市民経済学━━━━━━
私の教育人生 5 産業実験の現代的再生
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


この正月は、農村計画学会から植田和弘先生を通じて依頼されて原稿
作成に集中した。
申請の準備や、寄附集約の最終段階であるから、文字通り「走りながら」
の執筆である。
しかし、最近では、このような仕事のスタイルは一般の方々にも理解
されるようになって来た。
その理由は、ノーベル物理学賞に輝いた益川先生の「仕事スタイル」
が先生の御著書などを通じて広まったからである。
この書物によると、先生は、しばしば、労働組合の中心的な仕事を
引き受けさせられて、時間を取られ、その合間を縫うようにしながら、
創造的アイディアを練り上げられ、直観的に洞察されていたようで
ある。
たしかに、人間は、無限の時間や空間、知識などを占有しながら、
アイディアを出しているわけではない。
アイディアを生み出すための資源は常に限られている。
現実に生きておれば、生活のために、家族とのコミュニケーション、
地域や職場のつながり、自分たちの権威を守るための社会貢献や社会
活動も不可欠である。
時間は限られ、研究空間は限定された範囲でしか、活用できない。
すべての関連知識をすべてあたるなど、不可能である。
それにもかかわらず、創造的なアイディアが生まれ、社会的で、国際的
な影響力を発揮する。
私は、とても、益川先生のようには行かないが、先生の姿勢や生き
方には、心から共感した。今日は、このような正月の成果の一端で
ある。
依頼された論文のタイトルは、「持続可能な農村社会と創造環境の構想
―文化資本概念の検討とともに―」というものであった。

この「持続可能な農村社会」、すなわち、Rural Sustainability とは、
いま、このブログで論じている市民経済学と、密接な関係がある。
市民経済学の原点の一つは、J.ラスキンの芸術経済学であることは、
以前にも触れたことがある。
彼は、芸術的にみてデザインなどに優れた財、さらには、品質の良さ
を兼ね備えた財を生産できる社会、また、この財を享受できる人間を
永続的に生み出すことの出来る社会を構想した。
この「創造と享受」の関係は、既に見たように、神戸の市民活動が
市民経済を生み出す上で、最も重要なものであった。
例えば、外国人居住者の生活に必要な言語を翻訳して提供し、異文化
交流を行う市民活動が、海外の伝統的食文化を日本に紹介し、日本の
食文化と交流する中で、優れた料理人が、創造的な独自の味やデザ
インを生み出す。
この交流の中で、新たな文化に触れて、それを生活に活かす「享受能力」
のある人々が、この味を理解し、自分たちの生活の質を高めてゆく。
この‘営み’は、さまざまな領域で、新たな生活文化を生み出して、
そこに、市民経済が生まれてゆく。
創造と享受の関係を生み出す共通の土台は、仮に、ドメインとよぶと
すれば、農村社会こそが、このようなドメインの原点である、という
のが、最近の研究の成果なのである。 
私も、このような成果を受けて、ruralという英語を、田舎風あるい
は牧歌的な「生命や生活のありかた=マナーと生活の質」を創りだし
享受する人間関係ではないか、考えてみた。
そして、日本語の「農山漁村風」をruralに対応する訳語とすること
にした。
その理由としては、日本の農村は漁村と一体であることが多く、農業、
漁業、林業は自然からの採取を原点とし、栽培、養殖、植林などの
‘営み’によって、現代まで、事業化を遂げてきたことがあげられる。
‘田舎風の生活’の高い評価は、ヴィクトリア期、イギリス社会に
おいて提起された。
その中心に、ラスキンがいたことは言うまでもない。
それは、元来、水車によって自然との共生を図りながらエネルギーを
獲得し、穀物を挽く。職人技で、ウールを生産し、農産物、畜産物、
手工業製品の市場を教会や仕事場の前に開く。
次世代は、自然という環境ストックから芸術的創造や科学的認識を
学びとる。
文化財のような伝統的建築ストックに住む人々が、伝統的な農業や
職人技、商人の業を通じて教育する。
そして、人類が長い習慣の中で創りだした自治や共同占有の‘営み’の
中で、ひとり一人が職人技や創造性を身につけ、その成果をともに
楽しむ。
これらの智恵や経験知を次世代に伝え、田舎風の生活を持続的に発展
させる。
しかし、この牧歌的な生活様式は、機械制大工業による科学技術の
力と金銭蓄積の力を合体した都市の経済によって、一旦は解体される。
水車は止まり、水は汚染され、織機は売り飛ばされ、職人は離散し、
多数の農民は労働者となる。
教育も地域の自然や文化から切り離される。
それにもかかわらず、農民は自立と自治の精神や伝統を失わなかった。
ラスキンが「産業実験」の提起で示唆したように、かれらは、伝統的
な生産や生活の様式を継承しながら、都市の市民と連携して、協同の
組織を創り、都市の資金を農村に持ち込み、蹴散らされた文化資源を
コーディネイトして、産業実験に取り掛かる。
職人は呼び戻され、機械は買い戻され、水車が再生される。
生産においては、伝統の技に加えて都市からもたらされた科学的知識
や技術を活かす方策が講じられる。小さな市場には、地域通貨が相応
しい。
繊維の品質が向上して、都市や農村の新たな生活文化を支える。
生産には、創造性が生まれ、消費には、創造から学んで、その享受
能力が定着する。
現代的で芸術的なデザインが生み出されて、新たな製品が市場を拡大
してゆく。
生活文化の質を上げながら、産業実験は、農村の再生を軸に、都市と
農村の広域的連携を実現する。
都市と農村のネットワークは、巨大化に翻弄される都市生活を制御し、
文明の独走を許さない。従って、rural sustainabilityは、「農山漁村
風の‘営み’や動きを景観・産業・生活から創造的に再生し、生産人
の職人技、技術やデザインにおける創造性と、享受する人々の力量を
持続的に再生産すること」、あるいは、現状に即して言えば、「持続的に
再生すること」である。
日本各地の「ふるさと」意識や、故郷の懐かしさを共有しながら、とき
には、「故郷納税」も考え、地元の農林漁業が再生され、自然エネルギー
が活かされ、小型で、分散的生産に適応した先端技術をもつ地方工業
が発展する。
そこには、美しい水が再生され、棚田や、中山間地域の緑が広がる。
この流れを都市に住む人々が積極的に評価し、都市においても、自治や
共同占有の習慣を取り戻し、歴史的な道や文化財を再生し、産業遺産
を文化財として、都市生活の中に位置づけ始める。都市の利便性や
交流、移動のなかで、再生された農村文化が、都市にドメインを再生
し、あらたな生活文化と、新たなビジネスを生む。
この論文では、このような動きの先駆的な事例として、徳島県の上勝町
に注目した。
神戸市と、上勝町、この二つの事例から学びえたものを次に展開して
みよう。
| - | 17:36 | comments(1) | trackbacks(0) |
承認待ちのコメントです。
| - | 2010/01/25 11:44 AM |









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