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今日の話題  2010年1月19日
池上 惇

━━第34部━第三の道=市民経済学━━━━━━
私の教育人生 19 ドメインが創る市民経済
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


前回「神戸市長田区の‘たかとりコミュニティ・センター’」の例を
挙げて、(池田清「創造的復興から人間復興へ」『世界』No.101号、
2010年2月、82ページ)多様な市民活動やコミュニティ・ビジネス
を支える共通の‘しくみ’が歴史的、文化的に形成されてきたことを
示唆した。
この‘しくみ’は、イギリスでは「ドメイン」と呼ばれている。
英語のDomainには、「土地に対する究極的な支配権」という意味と
ともに、「松の樹林帯」のような‘特定の生物の生育圏、行動圏’、
の意味もある。
また、数学においては、「平面上の一部分で離れ離れにならない連なった
部分」、物理学では、「磁場」を意味していた。
この概念を人間の生命や生活の発達や行動の圏域に適用してみると、
「その地域に固有の‘人の育ち方’に対して究極的な影響を与える
もの」「その地域の‘人々の多様な行動’を相互に理解させ、共通して
支えているもの」が発見できる。

‘たかとりコミュニティ・センター’においては、「多様な言語を総合
に理解しあって生活できる人間の発達圏や行動圏」が生み出されていた。
このような生命と生活の共通基盤というべき圏域を生み出すには、西欧
文化を神戸に根付かせた日本のキリスト教会、その文化的伝統という
共通の基盤が必要であった。
そこには、人類愛や友愛の精神が根付いており、日本人は多様な外国
語を話す人々を受け入れて、その固有性を尊重し、翻訳や通訳を媒介
にしつつ、個性的な人々が異文化交流の中で発達する空間がある。
彼らは、智恵を出し合って、ともに、行動し、生活する習慣をつくり
出してきたのである。

池田教授が指摘されている‘人間発達の知識結い’とは、このような
「人間発達の‘しくみ’」なのであろう。
この習慣の土台のうえで、放送局や、新たな食文化の「仕事おこし」
(世界の食のデリバリー事業・食文化経済)、医療通訳システム構築モ
デル事業(医療文化経済)などが、市民経済を創り出していた。
ここで、注目されるのは、つぎの3点ではないか。
まず、「‘協智’」。すなわち、翻訳や通訳という活動における、500人に
も登る登録者の語学力、さらには、語学力を活かしあう知恵の存在で
ある。
市民の‘動き’には、‘協智’ともいうべき、「個性的な智恵を持ち寄
る」こと、
次に、「生きるための生活文化をめざす智恵の活用」。これらの智恵が
生活文化を高めるために活かされることによって、人々が育ちあう共通
の基盤が形成されていること。
最後に、「地域に固有のコミュニティ・ビジネス」。これらの共通基盤
の上で、その地に固有のコミュニティ・ビジネスが生まれていること
である。
その地域の市民活動が、その地に固有の市民経済を生み出すこと、この
過程が、ここでは、見事に示されていた。神戸の『人間復興』への歩
みは、ドメイン=「その地に固有な人間発達の‘しくみ’」の形成と、
その土台の上での市民活動、市民経済によって、実現されてゆく。
これは、新たな地域や都市再生の動きであり、これを理論化すること
によって、経済学や社会科学に新たな貢献が行われる。
厳しい震災は多くの犠牲を伴いつつ、新たな人生の再生に向けての
貴重な実践と、それによる研究成果を確実に生み出しているのである。
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